北陸××銀行直江津支店次長滝田恭助は、本店の業務部長に栄転することになった。彼の妻は頭取の娘()で、このことも出世を早める原()因らしかった。滝田の送別会で、一人離れて座っている男があった。中学時代に滝田と同級だった庶()務係の中池だ。滝田の妻はもとはと()いえば中池の恋人だった。それを滝田が奪ってから彼()の人生街道()が開いたのだ--。宴会の帰途、滝()田の前に立った男がある。ヤクザの熊木だ。滝田が女を養うために印()鑑を偽造、浮貸しをして()いる秘()密を握っているのだ。三百万円よこせと脅迫した。そして、拳銃を渡して金庫破りをすすめた。ある夜、レインコートを着、()ハンチングと()黒いスカーフ()で顔を隠した滝()田は、小使を縛っ()て銀行へ押し入った。宿直の中池が帰って来()た。滝田は拳銃をつきつけ、金庫の前に中池を引っ立てた。しかし、()中池は滝田の正体を見破っていた。滝田は急に笑い出し、防犯週間だから銀行ギ()ャングの予行演習を考えつい()たのだ()と言った。この場は何とかつくろったが、熊木が三百万円を待っている。二人は断崖の上でもみあい、足をすべらした熊木は悲鳴を残して落ちていった。翌日、滝田は中池に呼び止められた。中池()は自分が()熊木()を()使って脅迫させていたのだと言っ()た()。--妻や子と任地へ向う滝田は汽車()に乗ってい()た。しかし、隅の方の席には中池が座っていた。「これからあんたの行くところへはどこ()までもついて行く。銀行はやめたよ」と滝田を見上げて言うのだった。
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